ミクロとビジョンの交差点

移働する診断士

先日はマクロ視点で企業環境が揃ってきたという話をしましたが、今日はミクロ視点での話。

我々コンサルタントは、事業者のやりたい事に寄り添う脇役であり、冷静な視線で判断していくことが大切ですが、それがズレるケースというのがあります。

特に、事業者の理想を実現しようと一生懸命になればなるほどズレてしまいます。
というのが、先日の経営のデザイン研究会でのこと。

この研究会は経営デザインシートを使って、予測不能な世界でどのように経営をデザイン(組み立てていく)するのかをテーマにしている会です。デザインシート自体は企業内のこれまでにない発想や社長がやりたいことを実現するためにどのような価値創造ができるのかを導きまとめる形式になっています。

現在この会では、事例企業をもとにデザインシートを使って診断するとどうなるのかということをやるのですが、その会の事例企業は商店街の惣菜屋といった類の店舗支援をしたケースでした。

この店舗は、食の安心安全にこだわり高付加価値を目指した商品作りにより地域の事業者へ卸していることがメインで、一般顧客向けは少量とのこと。ただ、事業者向けの場合は、価格交渉が難しく、他業者との価格競争などにより取られてしまうこともままあるとのことでした。(ちなみに、事例の支援は10年以上前の話ですが・・・)お店は、商店街の一角に、惣菜の大きめの調理場が併設されている形となっています。

このような店舗を、支援する時にまずやるのが市場調査です。実際にその地域にくる人々の声を聞けるのがいちばん、次は公的データや他者が市場調査されたデータとなります。個店の場合は来店客を中心に声を聞くことがもちろん大切ですが、潜在顧客の声を聞きたいと思うと、どうしても他者が調査したデータを使用することになります。

今回も、それを適用していくと、食の安心や健康に対するニーズがすごく高まっているという結果が出てきます。そこから導き出すと、素材にこだわって、調理場の衛生面を高めて、味も美味しくしていく。そして、高付加価値をつけた単価の高い商品を開発し、陳列等も現代風の思わず買いたくなる雰囲気を出しましょうという流れになりますし、業者向けも、良い商品なのだから高級料理店や自然素材にこだわるお店への法人営業を強化しましょうという流れになります。

この時に、社長の想いが「多くの人々へ真心込めた惣菜を提供したい」とあったとしてデザインシートを使って支援すると上記の提案になることは容易に想像つきます。

デザインシートでは、現状とのギャップを見る方法として、経営資源で何が足りていないのか?その足りていない経営資源をどう補うのか?補った後にその経営資源を活用して、どのようなアクションを取るのか?ということを明確にしていきます。

コンサルティングのセオリーとしては正しいように見えます。

ただ、これからの事業を考える時に、この方向で本当に正しいのか?というところを冷静に判断することが大切です。このケースでは、街中の商店街の惣菜屋さんなので、そもそも法人営業を強化して商圏を無理に広げる必要があるのか?というのが、研究会の中でも議論の分かれたところです。その地域に根差した店舗を目指すのであれば、その地域の事業者や一般消費者が求める商品を提供していけば十分経営としては成り立つのではないかということです。商圏1Kmで充分なケースに、全国展開のセオリーを当てはめてしまうことが起きるのです。

これ、一番の原因は市場ニーズの掘り下げの段階で他者の市場調査結果を利用したところなんですね。この企業が置かれている実態と合わない調査データを、コンサルティングしたい方向へデータの解釈を合わせてしまうとストーリーとしては成り立ってしまうということです。

ミクロの実態とマクロの調査結果が一致していないということですね。