R6年の最低賃金とそのメカニズムについて

移働する診断士


この時期になると、来年の最低賃金の話題が出て来ます。経営者の方はご存知かと思いますが、最低賃金というのは、各都道府県ごとに定めた時給の最低額のことです。

適用は毎年4月で、このタイミングから労働者(従業員、パート、アルバイト)の1時間あたりの賃金額を最低賃金以上にしなければならないため、経営者にとっては最低賃金額がいくらになるかはとても気になることです。

この最低賃金のインパクトですが、仮に時給あたり40円値上げしたとします。従業員5名をフルタイムで雇っている場合、

40円×5人×160時間×12ヶ月=384,000円の人件費が多くかかります。
単純計算で、これに、社会保険料の16.3%(62,592円)も追加になるので、全体で446,592円の費用増になります。
ただ、その分法人税等が減りますので税率30%として、−133,978円で、実質312,614円のキャッシュアウトになります。

この計算は40円上昇した場合なので、今年のように多いところでは48円上がっている都道府県もあり、この場合は更にキャッシュアウトは増えます。

その分の利益確保が企業には求められるわけです。

さて、この最低賃金を誰が決めているのかと言うと、これは各都道府県の労働局が旗振りして、有識者からなる審議会を開きそこで決めています。

「最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成される最低賃金審議会において議論の上、都道府県労働局長が決定しています。
 具体的には、中央最低賃金審議会から示される引上げ額の目安を参考にしながら、各都道府県の地方最低賃金審議会での地域の実情を踏まえた審議・答申を得た後、異議申出に関する手続きを経て、都道府県労働局長により決定されます。
(厚生労働省のHPより)

これを見る限り、労使の両方の意見を主役して決めていると言えますね。今年の採点賃金決定額の一番のトピックは、ここにある「中央最低賃金審議会から示される引き上げ額の目安」(これは、中央から都道府県ごとにこのくらい上げてねと言う額)を地方の都道府県ほど超えて来たと言うことです。

具体的な数値は、こちら(厚生労働省)にありますが、一番大きく挙げて来たのが島根県と佐賀県の目安+8円、逆に東京は±0で提示通りになっています。この背景にあるのが、マクロ的には景気回復、ミクロ的には地方と都会の賃金格差是正だと思います。

景気回復としては、もういろんなところで言われていますが、日本経済の停滞を防ぐためには消費活動を促さなければなりません。世界的な原油・物価高と円安の背景にあるのが、日本の消費力が弱いことです。この数十年をみても、それほど物の値段は上がっていません。日本にいると上がったかのように感じていますが、海外と比較すると物価の差は大きく広がりつつあります。(逆に後進国との差は狭まりつつある)海外から来た人は日本は物価が安くて買い物が楽しいと話しています。GDPはそれなりにあっても、国民が消費活動をしないので物が売れないと言う状況です。なぜかと言えば、賃金が安いからです。賃金が安いから消費をためらう。これが現状ですね。なので、賃金を上げることで国民の消費活動を促し日本全体の物価も上げることで景気回復していく必要があるわけです。

賃金格差是正については、現在の日本はどこも人手不足な状況です。従業員がいないために事業活動が進まず倒産するケース、事業を閉じるケースも出ています。どうしても、地方は賃金が安いので若者が都会へ流出してしまう傾向がありのも原因です。そこで、若者に魅力ある賃金で地方で働いてもらいたいと言う力が働いて、是正の方向に動いたと思います。この最低賃金の決定については労使双方が参加していることがポイントです。地方で働き続けたい労働者と事業活動をし続けたい労働者の思いが一致した結果とも言えますね。

経営者の視点で見ると、最低賃金上昇は一見経営を圧迫するマイナス材料に見えますが、マクロ視点(鳥の目)で捉えると長期的には企業の体力を強めることになります。ただし、その過程できちんと経営していくことは求められます。

このために、政府もただ経営者がんばれではなく各種支援制度がありますのでこちらもご参照ください。