フォーキャスト vs バックキャスト【2つの計画アプローチ】

事業計画を作る際、「現状から未来を考える」のか「理想から現在を見る」のか——この違いが計画の成功を大きく左右することをご存知でしょうか?
前回の記事で事業計画の重要性をお伝えしましたが、実際に計画を作成する際には2つの根本的に異なるアプローチがあります。それが「フォーキャスト」と「バックキャスト」です。
今回は、この2つの手法の違いと使い分けについて、具体例を交えながら詳しく解説します。適切な手法を選ぶことで、より実効性の高い事業計画を作成できるようになります。
2つのアプローチの基本的な違い
フォーキャスト(Forecast):現状から未来を描く
フォーキャストは、現在の状況を起点として、段階的に未来を描いていく手法です。「今ある資源や能力を活かして、どこまで成長できるか」を考えます。
特徴:
- 現実的で実現可能性が高い
- リスクが比較的少ない
- 既存の強みを活かした計画になりやすい
- 段階的な成長を想定
バックキャスト(Backcast):理想から現在を見る
バックキャストは、理想的な未来を設定し、そこから逆算して現在すべきことを考える手法です。「こうありたい」という目標を先に決めて、そのために必要な要素を洗い出します。
特徴:
- 革新的で大胆な計画になりやすい
- 既存の枠組みを超えた発想が可能
- より高い目標設定ができる
- 創造性と変革を重視
フォーキャスト思考の詳細
適用場面
課題解決型の事業展開 既存事業に明確な課題があり、それを段階的に解決していく場合に適しています。
安定成長を目指す場合 現在の事業基盤を活かしながら、着実な成長を図りたい場合に有効です。
リスクを抑えたい場合 大きな変革よりも、確実性を重視する経営判断の場合に適用されます。
具体例:製造業の生産性向上
ある製造業企業が生産性向上を目指す場合:
現状分析
- 現在の生産能力:月産1,000個
- 稼働率:80%
- 主要課題:設備の老朽化、作業効率の低下
フォーキャストによる計画
- 第1段階(6ヶ月):作業手順の見直しで稼働率を90%に向上
- 第2段階(1年後):設備の部分的更新で生産能力を1,200個に
- 第3段階(2年後):人員配置最適化で月産1,400個を達成
このように、現在の状況から段階的に改善していく計画になります。
フォーキャストのメリット・デメリット
メリット
- 実現可能性が高く、関係者の合意を得やすい
- 必要な投資額やリスクを正確に見積もりやすい
- 既存の資源や能力を最大限活用できる
デメリット
- 革新的な発想が生まれにくい
- 現状の延長線上の計画になりがち
- 市場の大きな変化に対応しづらい
バックキャスト思考の詳細
適用場面
新規事業の立ち上げ 全く新しい事業分野に参入する場合、既存の枠組みにとらわれない発想が必要です。
大幅な事業転換 市場環境の大きな変化に対応するため、事業モデルを根本的に変える場合に適用されます。
イノベーションを起こしたい場合 業界の常識を覆すような革新的な取り組みを目指す場合に有効です。
具体例:デジタル変革への取り組み
ある小売業企業がデジタル変革を目指す場合:
理想的な未来像(3年後)
- オンライン売上が全体の50%
- AI活用により個別顧客対応を実現
- 店舗とオンラインが完全に連携したオムニチャネル
バックキャストによる逆算
- 必要な要素:ECサイト、在庫管理システム、顧客データ分析基盤
- 必要なスキル:デジタルマーケティング、データ分析、システム運用
- 必要な投資:システム開発費、人材採用・育成費、マーケティング費用
現在からの行動計画
- 即座に開始:デジタル人材の採用、既存スタッフのスキルアップ
- 6ヶ月以内:基本的なECサイトの構築
- 1年以内:顧客データの統合システム導入
経営コンサルタントからの視点
バックキャストは「逆算思考」とも言えます。多くの経営者は現状の延長で考えがちですが、本当に大きな成果を出すためには「こうありたい」という明確なビジョンから逆算することが重要です。ただし、あまりにも現実離れした目標では計画倒れになるため、理想と現実のバランスを取ることが専門家の腕の見せ所です。
バックキャストのメリット・デメリット
メリット
- 革新的で創造性に富んだ計画が作れる
- 高い目標設定により、組織のモチベーションが向上
- 既存の制約にとらわれない発想が可能
デメリット
- 実現可能性の評価が困難
- 必要な投資額やリスクが予測しづらい
- 関係者の理解と合意を得るのに時間がかかる
使い分けの判断基準
状況別の選択指針
フォーキャストを選ぶべき場合
- 既存事業の課題が明確で、段階的解決が可能
- 安定した市場環境で着実な成長を目指す
- 投資余力やリスク許容度が限定的
- 短期間での成果が求められる
バックキャストを選ぶべき場合
- 新規事業や大幅な事業転換を計画
- 市場環境の変化が激しく、革新が必要
- 十分な投資余力とリスク許容度がある
- 中長期的な視点で大きな成果を目指す
ハイブリッドアプローチ
実際の経営では、フォーキャストとバックキャストを組み合わせて使うことも多くあります。
例:既存事業の安定化 + 新規事業の開発
- 既存事業:フォーキャストで段階的改善
- 新規事業:バックキャストで革新的計画
このように、事業領域や目的に応じて使い分けることで、より効果的な経営戦略を構築できます。
実践時のポイント
フォーキャスト実践のコツ
1. 現状分析を徹底する 現在の強み・弱み、市場環境、競合状況を正確に把握することが成功の鍵です。
2. 実現可能な段階設定 あまりにも小さな刻みでは成長感がなく、大きすぎると実現困難になります。適切なマイルストーンを設定しましょう。
3. 定期的な見直し 市場環境の変化に応じて、計画を柔軟に修正することが重要です。
バックキャスト実践のコツ
1. 具体的で魅力的なビジョン設定 「売上を増やす」ではなく「業界のリーディングカンパニーになる」など、具体的で魅力的な未来像を描きましょう。
2. 必要要素の洗い出し 理想実現のために「本当に必要なもの」を漏れなく特定することが重要です。
3. 現実性の検証 理想的な計画も、実現可能性を定期的に検証し、必要に応じて調整しましょう。
【次のステップ】より実践的な計画手法へ
フォーキャストとバックキャストの違いと使い分けをご理解いただけたでしょうか。
これらの考え方を実際の事業計画作成に活用する際には、非常に有効なのが、「経営デザインシート(KDS)」という具体的なフレームワークです。
経営デザインシートは、フォーキャストとバックキャストの両方の要素を取り入れながら、視覚的で実践的な事業計画を作成できるツールです。多くの中小企業で成果を上げている実証済みの手法です。
フォーキャストとバックキャストの理論は理解できても、実際の事業に適用するには専門的な知識と経験が必要です。
戦略策定支援
Nordlys合同会社では、お客様の事業状況に最適な計画手法の選択から具体的な戦略策定まで、経営者の皆様をサポートいたします。
計画アプローチの選択支援
フォーキャスト・バックキャストの使い分け指導
ハイブリッドアプローチの設計
具体的な計画策定支援
現状分析から未来予測まで
実現可能性の検証とリスク評価
段階的な実行計画の作成
継続的な計画見直し
市場環境変化への対応
計画の軌道修正支援
新たな機会の発見と活用
適切な計画手法を選択し、実効性の高い戦略を策定することで、事業成長を確実に実現できます。
まずはお気軽にご相談ください。貴社に最適な計画アプローチをご提案いたします。
この記事は、中小企業診断士として数多くの事業計画策定を支援してきた実務経験をもとに作成されています。より詳しい手法選択や実践支援をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。